
E3D FlowCoreとFUGE技術が変えるホットエンドの未来|高流量ノズルの仕組みと対応機種まとめ
FDM方式の3Dプリンターで造形速度を上げたいとき、ボトルネックになるのがホットエンドの溶融能力です。フィラメントを溶かして押し出す速度(体積流量)に限界があると、いくらモーターが速くてもきれいな造形はできません。2026年9月、英国E3D-Onlineがこの課題に対して「FlowCoreライセンスプログラム」と「FUGE」技術を発表しました。従来のノズル設計とは異なるアプローチで高流量を実現するこの技術は、すでにOEM製品にも採用済みです。本記事では、FUGEの仕組みとFlowCoreプログラムの概要を、初中級者にもわかるように解説します。
ホットエンドの体積流量とは何か
体積流量(Volumetric Flow Rate)とは、ホットエンドが1秒間に押し出せる樹脂の体積のこと。単位はmm³/sです。一般的なFDMプリンターの標準ノズルでは10〜15mm³/s程度が上限とされており、この値を超えるとフィラメントの溶融が追いつかず、押し出し不足やノズル詰まりの原因になります。
高速プリンターの登場に伴い、モーターの送り速度は年々上がっている一方で、ノズル側の溶融能力が足りなければ速度を活かせません。こうした背景から、ホットエンドの溶融効率を高める「高流量ノズル」の開発が各社で進んでいる状況です。
従来の高流量ノズルの仕組み:CHT方式
高流量ノズルの代表格がBondtechのCHT(Core Heating Technology)ノズルです。CHT方式では、ノズル内部の溶融経路を3本の細い流路に分割し、フィラメントと金属の接触面積を増やして熱伝達の効率を上げる設計になっています。25〜35mm³/s程度の流量を実現でき、0.6mmノズルなら40mm³/sに達する場合もあります。
一方、経路が複数に分岐する構造のため、詰まった際の清掃がやや面倒だという声も少なくありません。フィラメントの種類を切り替えたとき、分岐部分に前の材料が残りやすい点もユーザーコミュニティで指摘されていました。
FUGEとは何か:フラット溶融経路という新しい発想
FUGE(Fast, Unified-Geometry Extrusion)は、E3Dが開発した新しいノズル内部構造です。CHT方式が流路を分割するのに対し、FUGEは1本の流路を平たくつぶすという根本的に異なる設計を採用しています。
標準的なノズルでは、フィラメントは円形断面の溶融経路を通ります。直径1.75mmのフィラメントがそのまま円形の経路を進むと中心部まで熱が届くのに時間がかかり、これが流量の制約でした。FUGEでは経路の断面を平たく幅広にして、フィラメントを薄く押し広げた状態にします。薄くなった分だけ外側から中心部までの距離が縮まり、熱の伝達が速くなる仕組みです。
Thomas Sanladerer氏による実機テストでは、FUGE形状のノズルはPrusa高流量ノズルと同等の約30mm³/sに到達したと報告されています。押し出し圧力の上がり方にも特徴があり、CHT方式では流量の限界付近で圧力が急上昇するのに対し、FUGE方式では圧力がなだらかに上昇する傾向が見られました。限界付近でも安定した押し出しが期待できる設計といえるでしょう。
流路が1本のままという設計上、詰まりが起きにくく、万が一詰まっても清掃しやすいという利点もあります。
FlowCoreライセンスプログラムの概要
2026年9月22日、E3DはFUGEを含む高流量押出技術の知的財産をまとめた「FlowCore」ライセンスプログラムを発表しました。FlowCoreは、E3Dが保有するFUGE関連特許と高流量技術の特許群をカバーするブランドで、ライセンス契約を結んだOEMメーカーの製品には「FlowCoreマーク」が付与されます。
対象特許は中国、欧州特許条約(EPC)加盟国、英国、米国の各管轄区域で登録されており、特許の一覧はFlowCoreIP.comで公開されています。どの特許がどの製品に適用されているかを誰でも確認できる透明性の高い運用が特徴です。
対応製品と今後の展開
FlowCoreマークを取得した最初のOEM製品は、Snapmaker × Phaetus「Liber High Flow Hotend for U1」です。2026年9月22日にFlowCoreプログラムと同日に発売され、価格は1個34.99ドル、4個セットが119ドルとなっています。
Liberホットエンドは、E3Dの特許技術を用いた分割流路型の溶融経路、DLCコーティング済み硬化鋼ノズル(硬度HV 725〜780)、表面粗さRa 0.2μm以下の精密加工ヒートブレイクという構成です。Snapmaker U1標準のステンレスホットエンドとの比較テストでは、PLAで66%、ABSで87%、PETG HFで43%の体積流量向上が報告されました。ただしSnapmaker社は独立した第三者検証やテスト条件の詳細を公開しておらず、この数値は同社の公称値にとどまる点に注意が必要です。
E3Dは他のOEMメーカーとも協議を進めており、FlowCoreマーク付き製品は今後増えていく見通しです。FUGE技術そのものの製品化については、E3D自社ブランドでの発売時期はまだ公表されていません。
よくある質問
FUGEノズルは既存のプリンターにそのまま取り付けられますか?
2026年10月時点では、FUGE技術はOEMライセンス製品としてSnapmaker U1向けに提供されています。E3D自社ブランドの汎用ノズルとしてはまだ発売されていないため、他機種への取り付けには対応していません。
CHT方式のノズルとFUGE方式ではどちらが高性能ですか?
最大流量はどちらも30mm³/s前後で大きな差はありません。FUGEは流路が1本のため詰まりにくく清掃が容易で、圧力上昇がなだらかという違いがあります。使用環境や重視する点で選ぶのがよいでしょう。
FlowCoreライセンスの特許情報はどこで確認できますか?
FlowCoreIP.com で、対象特許の一覧と各特許の管轄区域を確認できます。E3D-Online Limitedが運営するサイトで、登録製品の情報も掲載されています。
Liber High Flow Hotendの対応プリンターはどれですか?
Snapmaker U1専用の設計です。U1の4つの独立ツールヘッドに対応しており、他メーカーのプリンターには取り付けられません。
参考リンク
- FlowCore Technology and Our Commitment to Collaborative Additive Manufacturing(E3D-Online公式ブログ)
- FlowCore — Intellectual Property Register(E3D-Online特許登録サイト)
- Snapmaker and Phaetus Launch Liber Hotend with Licensed E3D Technology(3D Printing Industry)
- The Evolution of E3D's High Flow Technology(E3D-Online公式ブログ)
- Changing Nozzle Internal Geometry To Increase FDM Flowrate(Hackaday)



