
HP MJF 1200発表 — 産業用3Dプリンターの小型化が中小企業のものづくりを変える
2026年4月14日、HPはアメリカ・デトロイトで開催された3Dプリンティング業界最大級の展示会「RAPID+TCT 2026」にて、新型コンパクトMJFプリンターHP Multi Jet Fusion(MJF)1200を発表しました。6万ドル(約900万円)を下回る価格帯で、これまで大企業向けだった産業用粉末焼結3Dプリンターが、中小企業や研究機関にも手の届く存在になりつつあります。
この記事では、MJF 1200のスペックと特長、同時に発表されたJet Fusion 5600シリーズのアップデート、そして産業用3Dプリンターの小型化が中小製造業にもたらすインパクトを解説します。
HP MJF 1200とは? — 産業グレードを手のひらサイズに
HP Multi Jet Fusion(MJF)は、HPが2016年に発表した粉末床溶融結合方式の3Dプリンティング技術です。ナイロン(PA 12)などの粉末材料に「フュージングエージェント」と呼ばれる液体を噴射し、赤外線で焼結することで、射出成形に迫る強度と精度の部品を造形できます。
従来のMJFプリンター(Jet Fusion 5200/5600シリーズ)は、造形品質こそ業界トップクラスですが、本体サイズが大きく、価格も数千万円規模。中小企業が導入するにはハードルが高い存在でした。
今回発表されたMJF 1200は、そのコア技術をコンパクトな筐体に凝縮したエントリーモデルです。ビルドボリューム(造形可能サイズ)は320×165×230mm・容量12リットル。フルビルドでも12時間以内に造形が完了し、粉末の再利用率は最大80%。日常的なプロトタイピングから小ロット生産まで、幅広い用途に対応します。
スペックと価格 — 6万ドル以下の産業用MJF
MJF 1200の主なスペックをまとめます。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 造形方式 | Multi Jet Fusion(MJF) |
| ビルドボリューム | 320 × 165 × 230 mm(12リットル) |
| フルビルド造形時間 | 12時間以内(PA 12 スタンダードモード) |
| 対応材料 | HP 3D High Reusability PA 12 |
| 粉末再利用率 | 最大80% |
| 電源要件 | 200〜240V / 50・60Hz / 2×16A |
| 価格 | 6万ドル(約900万円)以下 |
| 出荷開始 | 2027年初頭予定 |
パッケージにはプリンター本体のほか、マテリアルマネジメントシステム(粉末の自動混合・供給装置)、ナチュラルクーリングユニット(冷却装置)、2つのマテリアルタンク、そしてMaterialise社のMagics Print for HPソフトウェアが同梱されます。ネスティング(配置最適化)やパーツの向き設定、ビルドレイアウトなど、造形準備に必要なツールが初日から揃う構成です。
HPのSVP兼ゼネラルマネージャーであるAlex Moñino氏は「産業グレードの性能を、アイデアが生まれる場所に近づける。部品あたりのコストを下げ、ワークフローを簡素化することで、より多くのお客様がアディティブ・マニュファクチャリングを導入しやすくなる」とコメントしています。
Jet Fusion 5600のアップデート — デュアルトーンと生産性向上
MJF 1200と同時に、既存の上位機種であるJet Fusion 5600シリーズにも注目すべきアップデートが発表されました。
MJF デュアルトーン印刷
HPのMJF技術は複数の「エージェント」(液体薬剤)を使い分ける仕組みですが、このエージェントシステムを活用してホワイトとグレーの2色トーンで造形できる新機能が追加されます。部品表面にテクスチャ、QRコード、マーキング、ラベルなどを直接プリントでき、後加工の手間を削減できます。
Jet Fusion 5600が対応する最初の機種となり、2026年後半に提供開始予定です。
ハイプロダクティビティモード
Jet Fusion 5600シリーズに新たに追加される印刷モードで、出力量が従来比20%向上します。大量生産を行う現場で、スループットの底上げが期待できます。
新材料:PA 12 ガラスビーズ
「HP 3D High Reusability PA 12 Glass Beads」が新たに対応材料に加わります。ガラスビーズを配合したナイロンで、高い剛性と寸法安定性を低コストで実現。自動車部品や治具など、強度と精度が求められる用途に適しています。
中小企業への影響 — 産業用3Dプリンターが「手の届く設備」に
MJF 1200の登場は、単なる新製品発表にとどまりません。産業用3Dプリンターの市場構造そのものを変える可能性があります。
これまで、MJFレベルの造形品質を求める中小企業は、外部の3Dプリントサービスに発注するのが一般的でした。しかし外注には「リードタイムがかかる」「設計の機密情報を外に出す必要がある」「小ロットだと割高になる」といった課題があります。
MJF 1200は、これらの課題に対する現実的な選択肢を提供します。
- 設計検証の内製化:試作を社内で回せるため、開発サイクルが短縮できる
- 機密性の確保:データを外に出さずに造形できる
- 小ロット生産:治具・工具・カスタム部品を必要な時に必要な数だけ作れる
- コスト削減:粉末再利用率80%により、材料のランニングコストを抑えられる
実際に先行テストを行ったAnima Design社のEric Paris氏は「コンパクトなフォーマットで産業グレードの部品を造形でき、既存のワークフローを変えることなく設計検証ができる」と評価しています。
HPのアディティブ・マニュファクチャリング戦略と今後の展望
2026年はHPがアディティブ・マニュファクチャリング(AM)に参入してちょうど10年目の節目です。同社はMJF技術を中心に、ポリマー(樹脂)からメタル(金属)まで幅広い造形ソリューションを展開してきました。
今回のRAPID+TCTでは、MJF 1200のほかにもMetal Jet S100プラットフォームで銅やニッケル基超合金(M247LC)、超硬合金(タングステンカーバイド・コバルト)の材料認定が発表されるなど、金属3Dプリンティングの領域も着実に拡大しています。
また、「HP Industrial Filament 3D Printer 600 HT(高温対応)」の米国・カナダでの一般販売も開始。航空宇宙や医療、自動車分野での高温材料ニーズに応える製品です。
MJF 1200が2027年初頭に正式出荷されれば、これまで「産業用は高すぎる」と諦めていた中小企業やスタートアップ、教育機関にとって、MJF技術への入り口が大きく広がることになります。FDM方式のデスクトップ機とは一線を画す造形品質を、より身近な価格帯で手にできる時代が近づいています。
よくある質問
HP MJF 1200はいつ発売されますか?
2026年4月のRAPID+TCTで発表され、正式な出荷開始は2027年初頭を予定しています。価格は6万ドル(約900万円)以下とされています。
MJF 1200とFDM方式の3Dプリンターは何が違いますか?
FDM方式はフィラメント(樹脂の糸)を溶かして積層しますが、MJF方式は粉末材料に液体エージェントを噴射し赤外線で焼結します。MJFのほうが部品強度・精度・表面品質に優れ、サポート材なしで複雑な形状を造形できます。
MJF 1200で使える材料は何ですか?
発表時点ではHP 3D High Reusability PA 12(ナイロン12)に対応しています。粉末の再利用率は最大80%で、材料コストを抑えた運用が可能です。
デュアルトーン印刷とは何ですか?
Jet Fusion 5600シリーズ向けに発表された新機能で、ホワイトとグレーの2色を使い分けて造形できます。部品にQRコードやマーキングを直接印刷でき、後加工の工数を削減できます。2026年後半に提供予定です。
中小企業がMJF 1200を導入するメリットは?
試作の内製化による開発サイクルの短縮、設計データの機密保持、小ロット部品のオンデマンド生産、粉末再利用による低ランニングコストなどが挙げられます。外注に比べリードタイムとコストの両面でメリットがあります。
参考リンク
- HP Marks a Decade of Additive Manufacturing Innovation by Introducing the New HP MJF 1200 3D Printer at RAPID+TCT — HP公式ニュースルーム
- RAPID + TCT 2026: HP's New MJF 1200 and Multi-Platform Updates — 3D Printing Industry
- HP Continues to Lower Barriers to Adoption with Compact MJF 1200 — 3DPrint.com
- HP launches HP Multi Jet Fusion 1200 compact MJF system — VoxelMatters
- HP Introduces MJF1200 3D Printer Providing Multi Jet Fusion Technology in Compact Format — Additive Manufacturing Media



