
国交省が建設3Dプリンター材料の規制緩和へ 2026年度が転換点になる理由
国土交通省が、建設用3Dプリンターで使われる材料に関する規制緩和に本格的に動き始めました。2026年3月には仕様基準の制定案が公開され、パブリックコメントの募集も実施。早ければ2026年5月にも施行される見込みです。
これまで建設用3Dプリンターの普及を妨げてきた制度上のハードルが、いよいよ下がり始めようとしています。この記事では、規制緩和の具体的な内容と、それが建設業界にどんなインパクトをもたらすのかを解説します。
これまでの課題 ― 建築基準法が3Dプリンター普及のボトルネックだった
建設用3Dプリンターは、モルタルやコンクリート系の材料をノズルから押し出し、層を積み重ねて構造物を造形する技術です。海外ではすでに住宅や商業施設の建設に使われていますが、日本では建築基準法の壁が大きく立ちはだかっていました。
日本の建築基準法では、構造部材に使える材料が「指定建築材料」として限定されています。3Dプリンター用のモルタルはこの指定に含まれていないため、建物を建てるには法第20条に基づく「大臣認定」を個別に取得する必要がありました。
大臣認定の取得には膨大な時間とコストがかかります。構造安全性の検証に加え、材料試験や施工実績の蓄積が求められるため、スタートアップや中小企業にとっては大きなハードルでした。事実上、3Dプリンターで家を建てたくても制度が追いついていない状態が続いていたのです。
2026年度の規制緩和 ― 何が変わるのか
国土交通省は2024年に「3Dプリンター対応検討委員会」の取りまとめを公表し、規制緩和の方向性を示しました。当初は2025年度中の告示整備を予定していましたが、新材料の特性評価に時間を要したため、具体的な施行は2026年度にずれ込みました。
2026年3月31日、国交省は仕様基準の制定案を公開し、e-Govでパブリックコメントを募集しました(締切:2026年4月29日)。早ければ2026年5月中に施行される予定です。
規制緩和の柱は大きく2つあります。
1. 小規模建築物向けの「仕様規定」の新設
延べ面積200m2以下の平屋建て(建築基準法上の「3号建築物」)を対象に、3Dプリンター用材料の仕様規定が新たに設けられます。この仕様規定にのっとって設計・施工すれば、従来必要だった大臣認定を取得せずに建設が可能になります。
小規模建築物では構造関係規定の審査が省略できるため、実質的にこれまでよりも大幅に手続きが簡素化されます。ガレージ、離れ、小型店舗、災害時の仮設住宅など、幅広い用途での活用が見込まれています。
2. 中・大規模建築物向けの「材料強度指定制度」の創設
中・大規模の建築物については、「材料強度指定制度」が新たに創設されます。これは、事業者が3Dプリンター用材料ごとに設計・施工マニュアルを策定し、国に申請して強度の指定を受けられる仕組みです。
従来、法令上に強度の定めがない新材料では構造計算そのものが困難でしたが、この制度により正式に構造計算のルートに乗せることが可能になります。大臣認定の全面的な省略とまではいきませんが、材料の評価プロセスが大幅に明確化・迅速化される点で大きな前進です。
技術面の進展 ― 2階建て住宅の耐震基準もクリア
規制緩和と並行して、技術面でも大きな進展がありました。2025年11月、築(きずき)社とオノコム社が日本初の2階建て3Dプリンター住宅を完成させました。延べ床面積49.92m2(1階30.52m2、2階19.40m2)で、建築基準法に基づく耐震基準をクリアし、建築確認・完了検査にも合格しています。
3Dプリントした部材と鉄筋コンクリートを組み合わせることで構造的な安全性を確保する手法が採用されました。これにより、平屋レベルに限られていた3Dコンクリートプリンターの活用範囲が2階建て住宅にまで広がったことになります。
また、セレンディクス社は2025年3月に種子島で3Dプリンター住宅2棟を建設するなど量産フェーズに入りつつあり、50m2・1LDKタイプの「serendix50」を550万円で販売しています。さらに、ウクライナでは国連工業開発機関(UNIDO)と連携し、帰還兵リハビリ施設の建設にも取り組んでおり、国際的な展開も進んでいます。
業界へのインパクト ― 何が変わっていくのか
規制緩和と技術進歩の両輪がそろうことで、建設3Dプリンター業界には以下のような変化が起きると考えられます。
参入障壁の低下
小規模建築物で大臣認定が不要になれば、スタートアップや地方の工務店でも3Dプリンター建設に挑戦しやすくなります。初期投資や許認可にかかるコストが下がり、業界全体のプレイヤーが増えることが期待されます。
建設コストと工期の削減
3Dプリンターによる施工は、従来工法に比べて工期を大幅に短縮できるのが特長です。セレンディクス社の事例では躯体を24時間程度で完成させた実績があります。人手不足が深刻化する建設業界にとって、省人化・省力化の有力な手段となります。
災害対応・住宅問題への貢献
工期が短く低コストな3Dプリンター住宅は、災害時の仮設住宅や、空き家問題が深刻な地方の住宅供給にも活用できる可能性があります。制度面の整備が進めば、こうした社会的ニーズへの対応も加速するでしょう。
人材育成の課題
一方で、3Dプリンター建設に対応できる人材はまだ限られています。設計、施工、品質管理の各段階で新しいスキルが求められるため、技術者の育成が普及のカギとなります。業界団体や教育機関との連携が今後ますます重要になるでしょう。
よくある質問
2026年度の規制緩和で、すぐに3Dプリンターで家を建てられるようになりますか?
延べ面積200m2以下の平屋であれば、仕様規定に従うことで大臣認定なしでの建設が可能になる見通しです。ただし2階建て以上や大規模な建物では、引き続き認定手続きが必要です。
3Dプリンターで建てた家の耐震性は大丈夫ですか?
2025年11月に完成した日本初の2階建て3Dプリンター住宅は、建築基準法の耐震基準をクリアし、建築確認・完了検査にも合格しています。鉄筋コンクリートとの併用により構造安全性を確保する技術が確立されつつあります。
3Dプリンター住宅の価格はどれくらいですか?
セレンディクス社の「serendix50」(50m2・1LDK)は550万円で販売されています。従来の住宅建設と比較して大幅に低コストですが、内装や設備は別途費用がかかる場合があります。
規制緩和は大規模な建築物にも適用されますか?
中・大規模建築物向けには「材料強度指定制度」が新設されます。大臣認定の全面的な省略ではありませんが、材料の強度を国に申請して指定を受けることで、構造計算のプロセスが明確化・迅速化される見込みです。
参考リンク
- 国交省が建設3Dプリンター向けの材料で規制緩和へ、26年度は転換点 — 日経クロステック
- 建設3Dプリンター、関連法に変化の兆し 建築材料の規制緩和へ — 日本経済新聞
- 建設用3Dプリンターを利用した建築物に関する規制の在り方について — 国土交通省(3Dプリンター対応検討委員会)
- 建設用3Dプリンターを利用した建築物に関する規制の在り方について(案)に関する意見募集の結果 — e-Govパブリック・コメント
- 築とオノコムが日本初の2階建て3Dプリンター住宅を建設 — 建設ITブログ



