
ABS・ASAフィラメントの印刷設定ガイド|反り・剥がれを防ぐ温度管理と密閉環境のコツ
PLAフィラメントに慣れてきて「もっと強度のある素材を使いたい」「屋外で使えるパーツを作りたい」と思ったとき、候補に挙がるのがABSとASAです。どちらも耐熱性・耐衝撃性に優れ、工業用途でもよく使われる素材ですが、PLAと同じ感覚で印刷すると「角がめくれる」「ベッドから剥がれる」といったトラブルに直面しがちです。
この記事では、ABS・ASAフィラメントの推奨温度設定、エンクロージャー(密閉環境)の活用法、ベッド密着を高めるテクニックを具体的な数値付きでまとめます。「反り」の原因を理解すれば、対策は意外とシンプルです。
ABSとASAの違い|どちらを選ぶべき?
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は、3Dプリンティングの初期から使われてきた定番のエンジニアリングプラスチックです。耐熱温度は約100℃前後で、自動車部品やレゴブロックにも使われています。ただし紫外線に弱く、屋外で使うと黄変・劣化しやすいのが弱点です。
ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリレート)は、ABSの弱点を改良して耐候性(紫外線耐性)を大幅に高めた素材です。屋外看板やガーデニング用品など、風雨にさらされるパーツに適しています。印刷特性はABSと非常に似ていますが、ASAのほうが若干反りが出にくいとされています。
迷ったら、屋外で使うならASA、室内用途ならABSと覚えておくとよいでしょう。印刷設定はほぼ共通なので、どちらか一方を習得すればもう片方もすぐに扱えます。
反り(ウォーピング)はなぜ起きる?原因を理解する
ABS/ASAの印刷でいちばん厄介なのが反り(ウォーピング)です。原因はシンプルで、溶けたフィラメントが冷えるときに収縮するからです。ABSは冷却時に約1.5〜2%収縮するため、先に固まった下層と後から積まれた上層で収縮差が生じ、パーツの角が持ち上がります。
反りが起きやすい条件は主に3つです。
- 急激な温度変化:エアコンの風や開いたドアからの隙間風が直接当たるケース
- ベッド密着不足:1層目の定着が不十分で、収縮力に負けて剥がれる
- 大きな底面積:底面が広いほど収縮量の合計が大きくなり、端部が反りやすい
逆に言えば、「冷却を均一にする」「1層目をしっかり貼る」「温度差を減らす」ことで反りは大幅に軽減できます。
推奨印刷設定|温度・速度・冷却の数値目安
以下の設定値は一般的なFDM 3Dプリンターでの目安です。メーカーやフィラメントのブランドによって推奨値は異なるため、フィラメントのパッケージやメーカーサイトの記載を最優先してください。
ノズル温度
- ABS:240〜260℃
- ASA:250〜270℃
1層目はベースより5℃高めに設定すると、ベッドに密着しやすくなります。
ベッド(ヒートベッド)温度
- ABS:100〜110℃
- ASA:90〜100℃
ビルドプレートは、PEIシートやPCシートなど高温対応のものを推奨します。
印刷速度
推奨は40〜60mm/sです。1層目は20〜30mm/sにスローダウンするのが鉄則で、高速プリンターでもABS/ASAでは控えめな速度のほうが安定します。
冷却ファン
基本はオフ(0%)です。ブリッジやオーバーハング部分のみ10〜20%に設定します。ファンの風が造形物に当たると、局所的に冷えて反りや層間剥離の原因になります。
その他のポイント
- リトラクション:5〜7mm(ボーデン式)/ 0.5〜1.5mm(ダイレクト式)。ABS/ASAは糸引きしやすいため適切に調整してください
- インフィル(充填率):15〜30%が一般的です。50%以上にすると内部応力が高まり、反りのリスクが増します
エンクロージャー(密閉環境)の活用|成功率を劇的に上げる
ABS/ASAの印刷で最も効果が大きい対策がエンクロージャー(密閉箱)の導入です。造形中のプリンター周囲を囲って庫内温度を40〜60℃に保ち、急冷を防ぎます。
エンクロージャーの効果
層ごとの温度差が小さくなり、収縮の不均一を抑えられます。外部の気流(エアコン・窓からの風)を遮断できるのも効果のひとつです。ABS印刷時に発生するガス(スチレン)の拡散を抑えるという、安全面のメリットもあります。
エンクロージャー導入のコツ
エンクロージャーは底面も塞いでください。暖かい空気は上に溜まるため、底が開いていると冷気が侵入し続けます。印刷開始前に15〜20分プレヒートするのもコツです。ヒートベッドを先に加熱して庫内温度を安定させてからスタートすると成功率が上がります。
エンクロージャーは簡易なものでも効果があり、市販の専用品だけでなく、段ボール箱やIKEAのLACKテーブルを改造したDIYエンクロージャーでも十分な効果が得られます。電子部品の過熱には注意が必要です。メインボードやステッピングモーターは高温に弱いため、基板を外に出すか、排熱経路を確保してください。
ベッド密着を高めるテクニック5選
反りを防ぐには、エンクロージャーと合わせて1層目の密着を強化することが欠かせません。
- ビルドプレートの脱脂:IPA(イソプロピルアルコール)で印刷前にベッド表面を拭き、油脂を除去します。素手で触ると皮脂が付くので、清掃後はなるべく触れないようにしましょう
- PEIシートの活用:テクスチャードPEIシートはABS/ASAとの密着性が高く、温度が下がると自然に剥がれるため扱いやすいです
- スティックのりの塗布:ケープ(ヘアスプレー)やPVAスティックのりをベッドに薄く塗ると密着が向上します。古典的な方法ですが効果は確実です
- ブリム(Brim)の追加:スライサーで「ブリム」を5〜10mm幅に設定すると、底面の接着面積が増えて反りを抑えられます。大きなパーツでは特に有効です
- 1層目の高さとスピード調整:1層目のレイヤー高さを0.25〜0.3mmと厚めにし、速度を20〜30mm/sに落とすことで、フィラメントがベッドにしっかり押し付けられます
よくある失敗パターンと対処法
印刷設定を合わせても失敗することがあります。ここでは、よく見る症状と対処法をまとめました。
角だけが反り上がる
エンクロージャー未使用、または庫内温度が低い可能性があります。プレヒート時間を延ばし、隙間風を遮断してください。ブリムの追加も効果的です。
印刷途中で層間剥離(割れ)が起きる
ノズル温度が低すぎるか、冷却ファンが強すぎます。温度を5℃刻みで上げてテストし、ファンはオフにしてください。
1層目がベッドに貼りつかない
ベッド温度不足・Zオフセットが離れすぎ・ベッド表面の汚れが主な原因です。ベッドをIPAで清掃し、Zオフセットを再調整してみてください。
表面に気泡やブツブツが出る
フィラメントが湿気を吸っています。ABS/ASAは吸湿性があるため、ドライボックスで保管し、使用前に60〜80℃で4時間以上乾燥させてください。
よくある質問
ABS/ASAはエンクロージャーなしでも印刷できますか?
小さなパーツ(5cm角以下)であればエンクロージャーなしでも印刷できることがありますが、成功率は大きく下がります。反りに悩むなら簡易エンクロージャーの導入を強くおすすめします。
ABSとASAで印刷設定は変える必要がありますか?
基本的な設定はほぼ同じです。ASAは、ノズル温度をABSより5〜10℃高め、ベッド温度をやや低め(90〜100℃)にすると安定する傾向があります。フィラメントメーカーの推奨値を基準に微調整してください。
PLAからのステップアップとしてABSとASAのどちらがおすすめですか?
屋外使用が前提ならASA一択です。室内用途でコストを抑えたい場合はABSが入手しやすくおすすめです。ASAはABSより反りが出にくいため、初挑戦にはASAのほうが扱いやすいという声もあります。
ABS/ASAの印刷時に換気は必要ですか?
はい。特にABSは加熱時にスチレンガスが発生するため、十分な換気が必要です。エンクロージャーに活性炭フィルター付きの排気ファンを設置するか、換気のよい部屋で使用してください。ASAも同様にガスが発生しますが、ABSよりやや少ないとされています。
参考リンク
- ABS / ASA / PC 使用ガイド — Bambu Lab Wiki
- ABS and ASA Complete Guide — Enclosure, Warping, Settings — printpal.io
- ASA フィラメントの秘密: 知っておくべきことすべて — SainSmart Japan
- 3DプリンターのABSフィラメント完全ガイド — i-MAKER
- 【ASAフィラメント】失敗しないパラメーター — TENAGLE



