ブログ一覧に戻る
3Dプリンターの糸引きを撲滅する|リトラクション設定の基本と素材別チューニング術 - 3Dプリンタブログ | 3DLab
3Dプリンター

3Dプリンターの糸引きを撲滅する|リトラクション設定の基本と素材別チューニング術

3DLab
2026年7月9日
120 views

FDM方式の3Dプリンターでいちばん多いトラブルの一つが「糸引き(Stringing)」です。ノズルが移動するたびに細い糸状のフィラメントが残り、完成品の見た目が台無しになった経験はありませんか。原因の多くは、リトラクション設定とノズル温度が合っていないことです。この記事では、糸引きが起きる仕組みから、PLA・PETG・TPUの素材別の最適なパラメータ値、テストタワーを使った具体的な調整手順までを解説します。

糸引きはなぜ起こるのか — 3つの原因

糸引き(Stringing)は、ノズルが造形エリアの間を移動するときに、溶けたフィラメントがノズル先端から少しずつ漏れ出して起こります。主な原因は次の3つです。

1. リトラクション不足
リトラクションとは、ノズルの移動時にフィラメントを一時的に引き戻す動作です。引き戻す量(距離)や速度が足りないと、ノズル内に残った溶けた樹脂が移動中に垂れてしまいます。

2. ノズル温度が高すぎる
温度が高いほどフィラメントの粘度が下がって流れやすくなるので、リトラクションで引き戻しても樹脂がノズル先端から糸を引きやすくなります。

3. 移動速度が遅い
ノズルが造形エリアの間を移動する速度(トラベル速度)が遅いと、移動中に樹脂が漏れ出す時間が長くなります。トラベル速度を150〜200mm/s程度に上げるだけで改善することも少なくありません。

このほか、フィラメントが湿気を吸っていると、水分が蒸発するときに余分な樹脂が押し出され、糸引きがひどくなります。PETG・ナイロン・TPUはとくに湿気を吸いやすく、50〜60℃で4〜6時間乾燥させることが推奨されています。

リトラクション設定の3大パラメータ

糸引き対策でいちばん大事なのは、スライサーのリトラクション設定を正しく調整することです。ここでは、特に重要な3つのパラメータを解説します。

リトラクション距離

ノズルの移動時にフィラメントを引き戻す長さです。最適な値は、エクストルーダーの方式によって大きく変わります。

  • ダイレクト式:0.5〜2.0mm(エクストルーダーとノズルが近いので短い距離で十分)
  • ボーデン式:2.0〜7.0mm(チューブが長いぶん、多めに引き戻す必要がある)

距離を長くしすぎると、再び押し出すときにフィラメントの供給が遅れ、造形物に隙間ができることがあります。値は少しずつ上げて調整しましょう。

リトラクション速度

フィラメントを引き戻すときのモーターの速度で、一般的には25〜60mm/sの範囲で設定します。遅すぎると引き戻しが間に合わず、糸引きが出ます。逆に速すぎると、フィラメントが引きちぎれたり、ギアが空回りしたりするおそれがあります。

  • 推奨スタート値:40mm/s
  • 調整幅:5mm/s刻みで上下に調整

ノズル温度

温度を下げると粘度が上がって糸引きは減りますが、下げすぎると押し出し不良やノズル詰まりの原因になります。各素材の推奨温度範囲のうち、下限に近い温度から試すのがコツです。

素材別リトラクション設定ガイド

PLA・PETG・TPUはそれぞれ粘度や弾性が違うので、同じ設定では対応できません。エクストルーダー方式別の推奨スタート値を、素材ごとにまとめました。

PLA(ポリ乳酸)

比較的糸引きが起きにくい素材です。リトラクション設定の調整がいちばんやりやすく、初心者の練習に向いています。

  • ノズル温度:190〜210℃(推奨スタート:200℃)
  • リトラクション距離:ダイレクト式 0.5〜1.0mm / ボーデン式 4〜5mm
  • リトラクション速度:40〜50mm/s

PETG(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)

PLAより粘度が高く、糸引きしやすい素材として知られています。温度を下限寄りに設定し、リトラクション距離をPLAより1〜2mm長めにするのがポイントです。

  • ノズル温度:220〜240℃(推奨スタート:225℃)
  • リトラクション距離:ダイレクト式 1.0〜2.0mm / ボーデン式 5〜7mm
  • リトラクション速度:35〜45mm/s

PETGは湿気を吸いやすいので、フィラメントの乾燥も大切です。開封後はドライボックスに保管し、糸引きが改善しないときは、まず乾燥を試してください。

TPU(熱可塑性ポリウレタン)

柔らかい素材なので、リトラクションを強くかけるとフィラメントが座屈(チューブ内で曲がる)して、ジャムの原因になります。基本的には、リトラクションを無効にするか最小値にして使います。

  • ノズル温度:220〜240℃(推奨スタート:225℃)
  • リトラクション距離:ダイレクト式 0〜1.0mm / ボーデン式 非推奨(ジャムしやすい)
  • リトラクション速度:20〜30mm/s

TPUの糸引きを減らすには、リトラクションよりも、トラベル速度を上げたり温度を下限に近づけたりするほうが効果的です。

テストタワーで効率よく調整する手順

リトラクション設定の最適値を見つけるには、テストタワー(リトラクションタワー)を使うのがいちばん効率的です。複数の設定値を1回のプリントで比べられるので、試行錯誤にかかる時間を大きく減らせます。

ステップ1:テストモデルを入手する

ThingiverseやPrintablesで「retraction tower」や「stringing test」と検索すると、無料のSTLファイルが見つかります。よく使われるのは、2本の柱が並んだシンプルなモデルです。

ステップ2:スライサーで段階設定を入れる

Cura(バージョン5.x以降)では、「Extensions」→「Post Processing」→「Modify G-Code」からリトラクションタワー用のスクリプトを追加できます。一定の高さごとに、リトラクション距離や速度が段階的に変わるよう設定してください。

たとえばボーデン式プリンターでPETGを試すなら、リトラクション距離を3mmから7mmまで0.5mm刻みで変えるよう設定すれば、1回のプリントで9段階を比べられます。

ステップ3:プリントして最適値を読み取る

プリントが終わったら、各セクションの柱の間を目で見て確認します。糸引きがいちばん少ないセクションの設定値が、そのフィラメントとプリンターの組み合わせでの最適値です。

ステップ4:本番データで最終確認

テストタワーで見つけた値をスライサーに入力し、実際にプリントしたいモデルを試しに出力します。複雑な形のモデルでは移動のパターンが変わるので、テストタワーと違う結果になることもあります。微調整するときは、0.5mm単位で距離を前後させてみてください。

リトラクション以外の糸引き対策

リトラクション設定だけで糸引きがなくならないときは、次の対策も試してみましょう。

まず、トラベル速度を上げます。150〜200mm/sに設定すると、移動中の樹脂漏れを最小限に抑えられます。次にコースティング(Coasting)です。セクションが終わる直前にフィラメントの供給を止め、ノズル内の残圧を逃がす機能で、Curaでは0.064〜0.2mm³程度で効果が出ます。ワイプ(Wipe)は、リトラクションの前にノズルを造形物の上で拭く動作を入れる機能です。糸の出始めを造形物の中に収められます。

フィラメントの乾燥も効果があります。湿気を吸ったフィラメントは造形品質全般が落ちるので、フィラメントドライヤーやフードドライヤーで乾燥させましょう。ノズルの清掃・交換も忘れないでください。摩耗したノズルは内径が広がり、樹脂が漏れやすくなります。真鍮ノズルは、使用頻度に応じて定期的な交換が推奨されています。

よくある質問

リトラクション距離とリトラクション速度、どちらを先に調整すべきですか?

まずリトラクション距離から調整するのが効率的です。距離が合っていないと、速度をいくら変えても効果が薄いからです。距離を決めてから、速度を5mm/s刻みで微調整しましょう。

ダイレクト式とボーデン式で設定値が違うのはなぜですか?

ボーデン式はエクストルーダーとノズルの間に長いチューブがあり、チューブ内のフィラメントのたわみの分まで多めに引き戻す必要があるためです。ダイレクト式はノズルの真上にモーターがあるので、短い距離でも十分に引き戻せます。

PETGの糸引きがどうしても消えません。どうすればよいですか?

まずフィラメントの乾燥を試してください(50〜60℃で4〜6時間)。それでも改善しなければ、ノズル温度を推奨下限付近(220〜225℃)まで下げ、コースティングとワイプ機能を一緒に使うと効果的です。

TPUでリトラクションを有効にするとフィラメントが詰まります

TPUは柔らかい素材なので、リトラクションを強くかけるとチューブ内で座屈します。ダイレクト式なら距離を0.5〜1.0mmに抑え、ボーデン式ではリトラクションを無効にして、トラベル速度と温度で対策するのが安全です。

テストタワーで最適値を見つけたのに実際のモデルでは糸引きが出ます

実際のモデルはテストタワーと移動のパターンが違うので、結果が変わることがあります。テストタワーで見つけた値を基準にして、リトラクション距離を0.5mm単位で微調整してください。スライサーのプレビューで移動線(トラベル)を確認するのも有効です。

参考リンク

タグ

3Dプリンター糸引きリトラクションPETGトラブルシューティング
3Dプリンター体験